予想屋ダービーマッチ 03秋
FUKUの予想

1999年6月12日、中日スポーツ賞4歳S。
前走葵Sを圧勝した1番人気のクールネージュが馬群に沈む中、壮絶な叩き合いを制したのはサイキョウサンデーだった。
その後サイキョウサンデーは重賞クラスでもがき続け、ハナ差敗れたトロットスターは急激な成長曲線を描き、
近年を代表するスプリンターに成長した。

2001年、己が出走した1200m戦を全て完勝で飾ったトロットスター。
しかし明けて2002年、トロットに引導を渡したのがショウナンカンプであり、ビリーヴであった。
彼女は翌2003年の高松宮記念でショウナンカンプを負かし、スプリント界を完全制圧、名実ともに頂点に立つ。

10月5日、中山競馬場、スプリンターズS。
スプリントG1の3連覇に挑んだビリーヴの勝利を、残り100mまで誰も疑わなかった。
だが・・・某絶叫アナウンサーも気付かないほど大外からブッ飛んで来てこれを捉えたのがデュランダル。
あのサイキョウサンデーの全弟である。

競馬を構成する要素のひとつに、めくりめく血のドラマというものがあると思う。
サラブレッドが生物である以上、その先天的な「素質」の決定に人智の入り込む隙間は一寸たりとも無い。
育成、厩舎、調教、騎手など様々な複合的要素が絡んで生み出される競馬のレース結果、
しかし勝利はその馬の高い能力無しではあり得ないのだ。

その優秀な能力が、必ず仔供に伝わるとは限らない。
各所で散々取り上げられているが、今日現在史上唯一の牝馬3冠馬・メジロラモーヌがその典型だろう。
生物の誕生のプロセスには、必ず人智を超えた何かが働いていて、誰の思惑にも捉われることは無いからこそ、
作り物では無い、筋書きの無いドラマが生まれる。

秋華賞はスティルインラブとメイショウバトラーを取り上げる。

スティルインラブの兄、ビッグバイアモンをご存知だろうか。
デビューが3歳の春までズレ込んだものの、2戦目のプリンシパルSでダンスインザダークの3着。
その7週間後、中山で行われたラジオたんぱ賞を1分46秒0という驚異的なタイムで圧勝した素質馬だった。

菊花賞を目指すべく夏休みに入ったビッグバイアモンだったが、復帰初戦の神戸新聞杯で悲劇は起こる。
若葉S勝ちのミナモトマリノス、ダービー3着のメイショウジェニエが実績上位と呼ばれるようなメンバー構成である。
何事も無く楽勝してもおかしくない条件のはずだったのだが・・・何事も無くレースを走るとは如何に難しきことか。
ついにターフに復帰する日は訪れず、現在は乗馬になっている。

それから7年の時を経て、半妹スティルインラブは6戦のキャリアを積み上げ、3冠に挑もうとしている。
決して何事も無かったわけでは無いだろうが、レースに出られなくなるような大きな故障も無くここまで来れたのだから、
半兄と違って何事も無く春2冠を制し、16年ぶりの牝馬3冠に挑もうとしている・・・と書いても何ら支障はなかろうと思う。

サラブレッドは経済動物である。
レースに出るところまで漕ぎ着けなければ、ドラマもクソも無い。
G1に出走するだけでも1つの勝ちだよ、と言う作家もいる。スティルインラブほどの馬になってしまうとそうは言っていられないのだが・・・。

4年前の中スポ賞4歳Sで惨敗した幸英明。
あの頃の彼は、お世辞にも人気で信頼できる騎手とは言い難かった。
しかしこの春、スティルインラブと王道を勝ち進むに連れて、確実に、そして一気に眠っていた才能が花開いた。


無事に最後の1冠まで辿り着いたこのコンビの織り成す3冠ストーリーの最終章がハッピーエンドに包まれていることを、切に祈る。
もう、重圧に苛まれるようなことは無いだろう。8枠17番、スッと好位に付けられるいい枠だと思う。
堂々の直線抜け出しを、3冠達成を期待する。


もう1頭はメイショウバトラー。
この馬の父・メイショウホムラをご存知の方は、果たしてどれくらい居られるだろうか。
血統的にはスティルインラブとは実に好対照、どこを振っても「地味」の2文字しか出てこないような血統構成である。

しかもメイショウホムラは1993年のダート王者である。
その父は知る人ぞ知る名種牡馬・ブレイヴェストローマン(1993年に惜しまれつつ夭逝)。
牝馬にばかり活躍馬が集中し(マックスビューティなど)、牡馬はダートの中堅級(フジノマッケンオーなど)が多かったことで知られている。

その直系を担うのがカリスタグローリとメイショウホムラの2頭。
カリスタグローリは自身はクリスタルCを制すなど芝で活躍したが、産駒はダート短距離馬ばかり。
それでも安定して堅実に走る仔を出すということで、なかなかの人気を集めている(代表産駒トーセンオリオンは芝のOPまで勝った)。

一方のメイショウホムラはダート不遇の時代のチャンピオンだったことが災いし、
思うように肌馬が集まっていないのが現状だ。それでも浦河でビワハヤヒデの隣で大事にされているのだから、
松本オーナーの競走馬に対する愛情の深さが感じられる。
かつて鎬を削ったナリタハヤブサらの引退後の境遇を知っているだけに、尚更だ。

母メイショウハゴロモはデビューこそ大幅にズレ込んだが、
その後は引退までの2年余の間、芝の中距離をメインにコンスタントに38戦を消化。
900万(現1000万)条件では5着が最高だったが、それでも4651万の賞金を稼ぎ出したのだから、馬主孝行な馬だったと言えよう。

父系のみを見れば、テュデナム×ダイナガリバー×メイショウホムラと重ねられており、
とても芝のスピード競馬に対応できる仔供が出る配合には見えないのだが、そこが人智の及ばぬ「素質」の面白いところである。
あえて言うなれば、メイショウエンゼル→メイショウハゴロモ→メイショウバトラーと、
自分の所有馬を重ねて来た松本氏の執念の結実、とでも言うべきか。

そのメイショウバトラー、デビューは母同様に3歳の夏、今年の6月と遅かったが、
初戦は経験馬相手によく伸びての2着、続く牝馬限定戦を6馬身ブッ千切って未勝利脱出。
続く3戦目は初めての芝だったが、○父限定戦だったとは言え、1700mを1分41秒3の好タイムで圧勝。西海賞にコマを進める。

この西海賞で、鞍上の難波はいつも通り好位からの抜け出しを図る。
だが、直線に向いても先行した3頭がしぶとく頑張っており、なかなか先頭に立たせて貰えない。
そうこうしているうちにこれらを纏めて面倒を見たのが、
クラシック候補と呼ばれながら故障で春2冠に出られなかったベストアルバムだった。

この1戦を機に、鞍上が両親も管理していた高橋成厩舎の主戦・幸英明にスイッチされる。
そして中3週で挑んだ牡馬・古馬との混合戦、野分特別でツルマルヨカニセ、ロードグランディスの猛追を振り切り、
本賞金が1400万円に達したことで、秋華賞直行という道が開かれたのである。
5戦3勝2着2回という素晴らしい成績を引っ提げての挑戦だ。

野分特別の2分フラットという勝ち時計の素晴らしさも勿論だが、
古馬との混合戦の1000万特別を制したということに大きな意味を感じる。
過去の例を紐解いても、古馬1000万を勝てる力があれば、同期の3歳牝馬、春からの既存勢力に伍する能力があると判断できるからだ。

それを実証して見せたのが3年前のティコティコタック。
更に記録を辿ると、この時の勝利騎手と、母メイショウハゴロモの3勝中2勝を挙げた騎手が、
そして今回メイショウバトラーの手綱を取る騎手とが一致しているのだ。そう、武幸四郎である。


普段は散々「合コン」などと揶揄させて貰っている武幸だが、
これらのバックストーリーに小さなドラマを、不思議な巡り合わせを感じずにはいられない。
逃げ差し自在のレースセンス良さも特筆モノだろう。
ひょっとしたら華やかな血統背景を誇る人気馬たちを蹴散らしてしまうかもしれない、という微かな期待も込めつつ応援したい。

そして最後に、18頭全馬が無事に厩舎まで戻って来ることを祈って・・・。

◎スティルインラブ
○メイショウバトラー
△オースミハルカ、ヤマニンスフィアー、レンドフェリーチェ、ヤマカツリリー、ベストアルバム

馬単  17→4   4000
    4→17   1000
ワイド 4−17   2500
3連複 3−4−17  500
    4−7−17  500
    4−8−17  500
    4−14−17 500
    4−16−17 500

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