アクアブルーの少女 その1

「ふあ〜、やっと終わったぜ。木林のヤロウ、細かいとこまでうるさいんだよな、まったくー」

 掃除を終えて教室に戻ってきた浩之は、部屋の隅でグラウンドの方にうつろな目を向けている女生徒にふと気が付いた。

「ん? なんだ、岡田じゃねーか。まだ残ってたのか?」

「あ、藤田君…
 別に残ってたっていいでしょ。あんたには関係ないじゃない」

「なんだか寂しそうな眼をしていたからよ」

「だから、あんたには関係ないって言ってんでしょ。早く帰りなさいよ」

「わ、わかったよ。じゃあな」

 そう言って教室を出ていこうとする浩之。

「あ、ちょっと…」

「どうした? なんか悩み事でもあんのか?」

「…いや、やっぱりいい」

「なんだ、おかしなやつだな」

 浩之が出て行こうかためらっていると、

「……あいつの…こと…なんだけど…」

「あいつ?」

「……保科…さん…」

「委員長? 委員長がどうかしたのか?」

 なんとなく思い当たる節はあったのだが、自分から聞くことでもないと思い、浩之はそう答えた。

「先週の修学旅行の時、あいつ……保科…さん…、消灯時間に遅れて幹久のやつに怒られたじゃない?」

やはりそのことか、と浩之は思った。

 修学旅行の最終日の前夜、浩之たちのクラスの委員長、保科智子は宿泊先の消灯時刻23:00を30分ほど遅れて戻ってきた。それまでが自由時間だったから買い物にでも夢中になっていて遅れたのかもしれないが、普段から優等生の委員長がそのようなミスを冒すとはちょっと考えられない。それでなにかがからんでるのでは、と浩之は考えていた。

 遅れた理由を生徒指導の芦屋幹久―ほんとは先生と呼ばないといけないが、態度がムカツクので、男子も女子も本人のいないところでは幹久と呼び捨てにしている―に聞かれた時、委員長は何も答えなかったらしい。幸い、普段の優等生が味方して少し注意を受けただけで済んだようだが。

「それがどうかしたか?」

 岡田のしゃべる気をそがないよう当り障りのない言葉を選んで先を促す。

「あいつ…保科さんが遅れたの、あたしたちのせいなのよ」

 またもやはり、と浩之は思ったが、それを口に出してしまうと岡田が怒り出すか口をつぐみかねないので、心の中に留めておく。

「あの晩、松本と吉井と3人で旅館の裏で花火やってたのよ。そしたら保科さんが来て…」

 岡田の話では3人で花火をやっていたところへ委員長が来て花火は禁止されてるからと注意したらしい。
 当然岡田たちは反発ししばらく言い争いをしていたが、そのうち花火と委員長を残して立ち去ってしまった。
 その後のことは立ち去った岡田は知らないが、おそらく委員長が後片付けをしていて消灯時刻に遅れたのだろうということだ。

「なるほど。委員長ならそうするだろうなあ」

「………」

「で、さっき窓際でたたずんでたのは?」

「……ちょっと悪かったかなって思って…。松本と吉井が謝りに行こうって言ったんだけど、あたしだけ行かなかったのよ…」

「そうか。悪かったって思うんなら委員長に謝っとけよ」

「……」

「なんだ? 謝りづれーのか? なんなら俺もつきあってやろうか?」

「あんたは関係ないじゃない」

「まあまあ。1人よりは行きやすいだろ?」

「…それは…そう…だけど…」

「じゃあ決まりな。明日の放課後にするか?」

「…う、うん」


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